エッセイ

私のパパは○ばかり・・・

私のパパはいつものばかり描いている。
ある日の夕方まだママが病院から帰ってこない頃、つまり宿題の引き算プリ ントにあきあきしてきたとき私はパパに、
「わたし早く大人になりたいなあ」
「・・・えっ・・・なんかいうた・・・」
「ほらやっぱり・・・だからパパは・・・いつも私の話をちゃんと・・・」
「えっ・・・なになに」
「だからあ~・・・もういいの」と返したところ、やおらパパが
「花!言い出してやめるのはよくない。なんていうたん」と叱責態度になる。
パパは声が大きいだけではなく、関西弁だから本人は怒っていなくてもこちらにはそう聞き取れる。
「だって・・・パパはぜんぜん私の話しを・・・」
「ごめんごめん、ちょっと佳境に入ってたから・・・そんで」パパは意外と素 直なのだ。でも、話しが良く理解できないので、
「カキョウ?カキョウってなに?」
「佳境なあ、ちょっとまだ無理かな、でもとてもいい質問なんで教えたる。あ のな、佳境って言う言葉は、そうやな、夢中や、夢中わかるやろ」とパパ。
「あ~あ~夢中ね、わかった」
「わかったか、それでなんていうたん、なんて」
「う〜ん、もういいの」
私はパパと会話をすると疲れるので話しを切ろうとするとパパは、
「花! あかん! 気になるから、さっき何を言いはじめたのかちゃんといいなさ い」こんどは関西弁と先生風を混ぜての叱責態度。これだから上から目線の大人にはなりたくないと私は思うのだが、さっき自分が吐いた言葉と矛盾するもそんなことはどうでもよいので、パパを無視するとパパが、
「ハナッ!こっち向きなさい」パパは本気になってくる。本気のパパはちょっ と怖いのでこっちもしおらしく、
「う〜ん。あのね、わたし早く大人になりたいなあっていったの」って小声で 言うと、パパは、
「なんでや、子供の方が楽やぞ、仕事せんでもいいし、だいいちいろいろとややこしい人間関係や、組織とか大人になったら・・・大変やぞ、大変やから子供はちゃんと宿題をせなあかん、宿題だけやとロクな大人にはなれんから復習とか、そやな、ピアノとかも練習せなあかん。そやのになんで早く大人になりたいんかがパパにはようわからん、なんでや、理由はなんや」
「だって、パパはいつも◯ばかり描いているから大人は楽やなあ、パパはいいなあと思って。だってねパパ、きいてきいてママがいっぱい治してるから」。
「なんて、これは芸術や、この無数の◯にはパパにもわからないすごい、そや 、なんせ凄い何かがあるとパパは信じ込んで◯を描いているんや、わかった ~。まあそれとママは確かに大変や、心の病気を治すのは大変なお仕事や。それはわかる、でもな花、パパは画家やろ画家はな、う〜ん画家はなとにかく大変なんやで、まあ今はまだわからんでもいいけど、パパが死んで花が結婚して子供が出来たころにはわかるようになるから。まだ先の話しやさかい、花はまだ小学生やろ、しかもまだ1年や、まあ春休みが終わったら2年になるけど」
そう言い放すとパパはまた◯ばかり描きはじめた。